前回のあらすじはこちら
-
-
原作小説|影の皇妃|ネタバレ・あらすじ4
続きを見る

wami
外伝1 永遠の愛
シアンは健康が悪化したリチャードの代理を務めていた。セシリアと政略結婚して2年が経っていたが、子供がいなかったため貴族たちは側室の選出を強く要求していた。貴族達を裏で操っているのはフランツェ大公だった。
シアンは、皇室の権威を取り戻すためリンドン伯爵(セシリアの父親)とともに密かに皇室近衛隊の改革を進めていた。
貴族達はシアンの意見を無視し側室を選出、ベロニカが選ばれた。シアンは幼いころに会ったベロニカの印象が忘れられなかった。人を見下す傲慢な態度、小動物を平気で殺す残虐性・・二度と関わりたくない人間だった。
警戒したシアンは、ベロニカを徹底的に無視し冷たい態度をとった。
セシリアは元々気さくで活発な性格だったため、皇太子妃を努めるのは苦痛だった。シアンは日に日に生気を失っていく彼女に罪悪感を感じていた。そんな時、セシリアとのお茶の席でベロニカが茶道を習っているとの話を耳にした。シアンはベロニカの本心が読めず戸惑った。
シアンが戻る際、庭園の月桂樹の前に立つベロニカを見かけた。何かを懐かしむような寂しい視線と悲しい表情はシアンを混乱させたが、彼は無視して立ち去った。
皇居近衛隊の改革は財政的な問題もあってうまくいっていなかった。補佐官のデンは何日も徹夜で仕事をするシアンの健康を心配をしていた。彼はシアンの腹心で信頼できる数少ない一人だった。
「多忙な殿下に暖かいお茶をご馳走したい。」ベロニカは何度もシアンのもとを訪ねたが、シアンは決して会おうとはしなかった。ベロニカの低姿勢で献身的な行動はシアンを酷く混乱させた。
ベロニカは3か月もの間シアンのもとを訪れたがシアンは頑として会わなかった。ある日、いつも来るはずの彼女が来なかったため、気になったシアンがデンに探させると、ベロニカはリチャードとお茶をしていた。不審に思ったシアンが二人のもとを訪れると、ベロニカはぎこちない笑みを浮かべて逃げるように席を離れた。「心の優しい子だね」信じられないリチャードの言葉にシアンは同意することができなかった。「しかし大公の娘ですよ。」
3か月後、皇帝リチャードが崩御した。リチャードの死を心から悼むベロニカの姿がシアンの目に焼き付いて離れなかった。
その後、シアンが皇帝となりセシリアが皇后、ベロニカは皇妃となった。
戴冠式のパーティーで、シアンはベロニカとレンの会話を聞いてしまう。「お前の正体がばれたら大公達はおまえを捨てるだろうな」「お願いです。何でも言うこと聞きますから」
「一体どういうことだ?」シアンはますます混乱した。レンが去った後、ベロニカは今にも倒れそうな青白い顔で壁に手をついていた。するとシアンが現れた。「陛下・・・」しかしシアンは無視してその場を離れた。引き留めようとしたベロニカは悲しくうなだれた。
「一体私は何を考えていたのか。」ベロニカに会った瞬間、シアンは慰めてあげたいという強烈な衝動に襲われた。しかし何とかその衝動を抑え、目を合わせないようにするのが精一杯だった。
シアンはリンドン伯爵の勧めでラファエルを宮廷画家に任命していた。彼はセシリア皇后と学術院時代の友人であったため、話し相手として孤独に過ごすセシリアへの配慮でもあった。
シアンは、ベロニカがラファエルから絵画を習っていることを知り不審に思った。あの残酷なベロニカが絵を習うとは到底信じられないことだった。
「絵画は人間の潜在的な内面を表出させます。ベロニカ皇妃は孤独感に苛まれています。私が思うに皇妃は決して悪人ではありません。」シアンは事情を聞くためにラファエルを呼び出したが、彼の言葉に酷く動揺した。
シアンはフィギンにベロニカを極秘に調査することを命じた。どれが本当のベロニカの姿なのか・・シアンの疑問は大きくなるばかりだった。
季節が変わったある雪の日、セシリアが毒殺される事件が起こった。リンドン伯爵は娘を失った怒りで震え、シアンは自責の念に駆られた。証拠はなかったが大公家の仕業なのは明らかだった。亡くなる前、ベロニカは一緒にお茶をしていたため有力な容疑者とされていたが、葬儀の際の涙をこらえる姿は心から悲しんでいるように見えた。
ベロニカ周辺を調べていたフィギンから報告があった。一時期ベロニカが姿を消したのは、熱病のせいではく毒によるものではないかとのことだった。シアンは今のベロニカが実は偽物ではないかと疑った。
ベロニカはセシリアの代わりとして皇后の役割を完璧にこなした。彼女と接する機会が増え、シアンは益々不思議な感情にとらわれたが、それを振り払うようにベロニカを意図的に遠ざけた。ベロニカは大公家の人間であり、もし偽物だとすれば皇室を侮辱する大罪であった。
建国祭の後、シアンは高熱で倒れた。朦朧とする意識の中で、シアンは必死で看病するベロニカに尋ねた。「あなたは誰だ?」ベロニカの瞳は激しく揺れたが、悲しい笑みを浮かべて答えた。「私は皇后さまですよ」
ベロニカだと答えれば追い出されると思った彼女は嘘をつくしかなかった。シアンのことが心配でずっと側にいたかった。
シアンはそんな彼女の本心を知り、胸の奥底にしまっていた気持ちが溢れた。シアンはだるい体のことも忘れ、彼女を引き寄せ唇を重ねた。
引き続きベロニカを調べていたフィギンから、大公家の隠れ家を見つけたの報告があった。調査によると、それまで薬品や薬草が納品されていたが、最近はドレスや装飾品が運び込まれているとのことだった。「もしベロニカが生きていたとしたら・・・」偽物は殺される運命だろう、シアンは彼女を守ろうと必死だった。
それから間もなく、シアンにとって衝撃の知らせが入った。ベロニカが妊娠した。
シアンは複雑な気持ちだった。ベロニカは公には大公家の娘であり政敵だった。自分の気持ちを抑えて冷たく接するしかなかった。そんなシアンの本心を知る由もないベロニカは、その冷たい態度に酷く傷ついた。
ベロニカ妊娠の知らせは、リンドン伯爵を激怒させた。シアンは彼女を守るために事実を話すことができなかった。皇室派たちを説得するのは難しかった。それでもなおシアンは安堵していた。「懐妊したからには大公家もむやみに手を出すことはできないだろう。」
闇夜に乗じてベロニカの寝室を訪れたシアンは、起こさないように彼女の顔を撫でた。「こうすることしかできない私を許せ、あなたを守るには仕方がないんだ。」
ベロニカは何度もシアンのもとを訪れたが、シアンは決して会わなかった。貴族派を牽制し、皇室派の信頼を得るためには仕方がなかった。
シアンは密かにベロニカの脱出計画を準備し、隠れ家も用意していた。計画成功のカギを握るのは皇居近衛隊の改革しかなかった。シアンは彼女と子供を守りたい一心で毎日体を壊すほど働いた。
しかしベロニカは予定日より7週間も早く出産した。早産だった。
子供が生まれたことの喜びとベロニカへの心配で居ても立ってもいられなくなったシアンが寝室に駆け付けた。しかし、侍女たちや待機する騎士たちの前では自分の気持ちを抑えるしかなかった。子供を抱いたりベロニカに優しい言葉をかけたりすれば皇室派の貴族たちの反発は必至だった。
シアンは気を引き締め、仕方なく彼女を傷つけるしかなかった。「私の一瞬のミスが帝国を奈落の底に追い込んでしまった」ベロニカは衝撃を受けた声を上げたがシアンは振り向かずに寝室を出た。(漫画版13話参照)
本宮に戻るシアンは拳を強く握りしめた。妻と子供を守ることができないだけでなく傷つけるしかできない自分に腹が立って仕方がなかった。
大公家に操られた貴族派たちは、ベロニカを皇后にするようシアンに迫った。シアンはデンに指示してベロニカの脱出計画を早めることにした。子供が生まれた以上、ベロニカの安全の保障はなかった。
誕生から11日が経ち、シアンはガイア教団の聖堂を訪れた。その日は法王から祝福を受け名前を授かる日だった。
「随分痩せたな、食事はどうしているのか」シアンは沈んだ顔を見せるベロニカを慰めたくて気が狂いそうだった。
しかし、目が合った彼女は今までのようなぎこちない微笑みはなく、冷たい寒気を漂わせた視線でシアンを見上げた。
「クラディオス・デ・イアン。高貴な皇子にガイアの女神の祝福がありますように。」
「イアン・・イアン」シアンは何度もその名前を口にした。ベロニカの子供を見る目には深い愛情が現れていた。
「あなたに話したいことがある」しかしベロニカは冷たい視線のままシアンの言葉を聞こうとしなかった。「陛下が私との結婚を望んでいないは分かっています。それでも私は陛下の側にいるだけで満足でした。そして抱かれた時は嬉しくて涙が出ました。。」その声は震えていた。シアンは返す言葉が見つからなかった。「私に対してはどんな仕打ちも構いませんが、この子はたとえ一瞬の過ちでも陛下のお子です。」シアンが誤解を解こう口を開いた時だった。「愛していました・・・これだけはどうしても言いたかったのです。」微笑みながら話す彼女の目からは涙がこぼれ落ちた。
シアンは手を伸ばし彼女の涙を拭こうとした。しかしその願いはかなわなかった。遠ざかる彼女を見つめながら、何としてでもこの計画を成功させるために我慢しなければならなかった。
しかし、それが彼女との最後の会話となった。
その日以来、まるで誰かが邪魔をしているかのようにベロニカと中々会うことができなかった。
しびれを切らしたシアンは直接訪ねて説得することにした。どこから話せばいいのか・・シアンははやる気持ちを抑え西宮に向かった。しかしベロニカの部屋にはフランツェ大公が先に来ていた。予期せぬ人物にシアンの顔がこわばった。
ベロニカはすでに入れ替わっていた。憮然とした表情で出ていくシアンを、二人はあざ笑うように見つめた。
シアンはデンを呼ぶように侍女に命じた。彼なら行方を知っているはずだった。心配で胸が張り裂けそうだったシアンは、ガイアの女神に生まれて初めて祈った。
シアンの腹心だったデンは殺され、その遺体は皇居周辺に捨てられていた。フランツェ大公による一種の警告だった。シアンが密かに皇后宮に送っていた騎士のデーモン卿も死体となって発見された。デーモン卿は大公家の隠れ家まで痕跡を残していた。
リンドン伯爵はシアンを問い詰めた。ベロニカ懐妊の時も失望したが、ある時からシアンの行動が理解できなくなっていた。
シアンはベロニカが代役だったことを打ち明けた。そしてリンドン伯爵の反対を押し切って、その日のうちに皇居近衛隊の改革を実行した。シアンは近衛隊と共に大公家の隠れ家に乗り込んで彼女を助けるつもりだった。
その夜、リンドン伯爵とフィギン卿の指揮の下、新しく編成された近衛隊が貴族派を制圧し本宮を掌握した。
シアンは大公家の隠れ家に向かった。今まで隠していた剣術で警備を突破し地下牢へ飛び込んだ。
「皇妃!」鉄格子の向こうで倒れている彼女を発見した。なぜか扉は半分開いていた。「悪かった。もうあなたを二度と傷つけないから僕を見てくれ!」彼女は目を開けたまま冷たくなっていた。牢の中は血痕が鮮やかだった。「目さえ閉じることができないほど悲痛だったのか」守ると約束したのに・・・自分が情けなくて耐えられなかった。
「すまない・・・」彼女を抱きしめ泣きじゃくるシアンの声が地下牢に虚しく響いた。
シアンが皇居に戻るころには夜が明けていた。皇居近衛隊は亡くなったデンの情報をもとに貴族派のスパイたちを全員処刑した。血の粛清だった。リンドン伯爵達は皇居の制圧を喜んだが、シアンは絶望と悲しみで怒りに満ちていた。
シアンはベロニカのもとに向かった。彼女の護衛騎士ローレンツはフィギンに殺され、彼女は寝室に軟禁されていた。
「この辺にしておいてください。これ以上はお互い疲れるだけでしょう」余裕たっぷりのベロニカは、意味深な笑みを浮かべて揺りかごの子を抱き上げた。その子はベロニカが抱き上げるやいなや大声で泣き出した。
シアンは殺気に満ちた目でベロニカに近づいた。いままで見たことがないシアンの恐ろしい形相にベロニカは狼狽え後ずさりした。シアンは彼女から子供を奪い取った。
「イアン・・」シアンは愛情に満ちた目でその子を見た。この世で誰も覚えていない彼女、代役というだけで痕跡さえも残せず名前すら知らない・・・そんな彼女が唯一この世に残した大切な存在がイアンだった。
「2度とお前がこの子を目にすることはない」シアンは一方的に告げるとそのまま背を向けた。彼女を助けることはできなかったが、この子は自分の命と引き換えにしても守ることを誓った。「陛下、お待ちください!」ベロニカは一声上げるだけでその場を動くことはできなかった。
シアンの胸に抱かれたイアンはすやすやと眠っていた。涙を我慢しながらシアンが囁いた。
「イアン、、、お母さんは世界で最も美しく、聡明な女性だった。そしてお前を心から愛していた。たとえ影として生きたとしても誰よりも立派な皇妃だった。」「だからお前と私だけは彼女の事を忘れないようにしよう・・イアン」
<完>

wami
何とか尽くそうと努力するエレナでしたが、シアンは徹底的に冷たく扱います。結局エレナはシアンの本心を知ることはなく怒りと絶望のうちに死んでいきました。回帰後、ルシアに変装したエレナは学術院でシアンと再会しますが、その時のことを思い出しショックで卒倒してしまいます。たとえ本心ではなかったとはいえ、シアンの取った態度はエレナに深い傷跡を残すことになりました。

wami
外伝2は、本編その後の話です。近いうちに別記事でまとめます~
-
-
原作小説|影の皇妃|あらすじ・外伝2
続きを見る